4/17 本ゼミ議事録~文献一本目~

 

本日は、英語文献二本を三年生がレジュメにまとめ、パワーポイントで発表しました。

 

以下に一本目の文献内容をまとめたレジュメをアップします。

 

 

2012/04/17

This Time It’s Real: The End of Unipolarity and the

Pax Americana

Christopher Layne

(文責:小跨、齋藤、土手内、古谷、森田、陸)

1.Introduction

Unipolar Stability Theorists

 

 

リーマンショック以前

-国際政治における米国の一極構造と必然的な覇権は遠い将来にわたって続く

リーマンショック以後

・米国務長官Hillary Clinton

-今後数十年間米国のリーダーシップが続く基礎を築くことになるNew American Momentの到来を宣言(2010)

⇒多くの学者も依然今後の米国一極構造と覇権を予想(Brooks and Wohlforth 2008; Zakaria 2008; Norrlof 2010)

・米国覇権終焉論者

-たとえ米国がパワーの優位性を失ったとしても、第二次世界大戦以後の米国が創った国際秩序であるPax Americanaは続く(Ikenbery 2001, 2011)

 

 

 

 

Christopher Layne

 

 

(主張)

米国の一極支配は終焉し、Pax Americanaも急速に衰退している

(論拠)

リーマンショックの2つの影響

1.中国の急速な成長に代表されるWestからEastへの富とパワーの移動

2.経済・財政基盤における米国の優位性に対する疑い

 

Gilpin等によって提唱された1980年代の米国衰退論を再検討し、リーマンショックが衰退論者の正当性を立証したことによって現在の一極支配の終焉を示唆

⇒米国が経済や財政といった重要基盤の優位性を失った時、すなわち米国が覇権を失った場合でさえも、国際機関や規範などPax Americanaの正当性を担保することによって、民主主義や自由貿易といった国際秩序の基本的且つ重要な部分を永続させることが出来る、という米国覇権終焉論者の主張を検討

 

本稿の構成

 

1.冷戦後の一極支配構造はいつまで継続するのか?

2.どの程度中国の台頭がUnipolar Stability Theoristsの主張を弱体化させるのか?

3.米国衰退の引き金である経済・財政基盤への考察

4.Pax Americanaは米国が覇権を失っても存続するのか?

(文責:小跨)

 

2. The External Driver of American Decline: The Rise of New Great Power

 

①アメリカの衰退:国際社会の中での大きな関心事である

 →経済力は欧州大西洋中心から新興国地域rising great and regional power(経済学者の言う”emerging market” nations)にシフトしている

Ex:中国,インド,ロシア…インドネシア,トルコ,韓国,ブラジル,南アフリカ

 

●世界銀行 2011.5 レポート

 中国,インド,ブラジル,ロシア,インドネシア,韓国の6つの国は2011年から2025年の間に世界の経済成長の1/2を占めると発表

 

Great powerの台頭→Unipolarity(一極体制)の終わり

Great powerが台頭しているかを見極める重要な二つのポイント

1)世界でのGDPの成長率

2)世界でのGDPのシェア

⇒これらを念頭に置くと、国際システムが急速に多様化し、アメリカが相対的に衰えてきている事は否定できない

⇒さらに、中国が世界経済の中心となってきて、地政学的にも重要な位置にある

 

※中国は冷戦後からどのようにすればgreat powerがアメリカに挑戦出来るかを考えてきたと著者は述べている

 

③中国の鄧小平の経済改革が始まってからの姿勢

 →国際政治の中で低姿勢を取り、アメリカや自国の周辺諸国との対立を避ける

 

 

●現代になるにつれて

 →アメリカ主導の国際秩序に対立はしないでいた

  「平和的台頭」を目標としてきた

 しかし、中国が現行の国際秩序に参入することは、長期間の意向ではない

 

・中国の長期目標≠裕福な国になる

→東アジアのアメリカの覇権地域に張り合えるのに十分な軍事力を得ることも含まれている

・中国が自信をつけた事は2010年の外交政策からもうかがえる

 

④客観的に見ても中国の台頭と相対的なアメリカの衰退は確認できる

IMF-世界のGDP15%を占める中国は2014年までにアメリカの18%を塗り替えると発表

Goldman Sachs(2003)-中国は2041年にアメリカを凌ぐ世界的な経済大国になる

 Goldman Sachs(2008)-中国は2028年に     〃

 

しかし、最近は中国がアメリカを追い越すのは2028年よりも早いと予測されている

 

<中国がアメリカを超す経済大国になると予測される年>

 

・さまざまな機関が中国が経済大国へとなる年を2010年代後半から2020年代前半と予測

Arvin Subramanian氏(Peterson Institute for International Economics)によれば中国はすでに世界1位の経済大国になっている

         ↓

中国がすぐにアメリカに追いつき、追い越すのは明らかである

 

⑤中国がアメリカに代わる大国になろうとしているのには経済よりも重要な地政学的な意図がある

 ↓

新興国の台頭にはパターンがある

 

1)新興国の台頭には地政学的な不安定さがある

19世紀後半から20世紀前半にかけての二つの世界大戦も似た状況

 

2)新興国が裕福になった時、その国の政治的な野心は増大し、その国の経済力を基盤とした軍事力強化へと転換する

→中国はすでに軍隊の近代化と強化に取り組んでいる

3)新興国は自国の支配力が効く地域を得ようとする

→中国とアメリカは東アジアで衝突する

 アメリカは1945年からこの地域で指導権を持っているが、力をつけた中国は自国の勢力圏にしたいと考えている

 

4)新興国は国際的な経済的・政治的影響力を得ると、戦力投射能力を得てその影響力を守ろうとする

(文責:齋藤)

 

 

3. Revisiting the 1980s’ Debate on American Decline : The ‘‘Declinists’’ Were Right

.アメリカの下落に対する恐れから囲まれたのは今回が初めてではない。

Paul Kennedyが書いた‘The Rise and Fall of the Great Powers’によるとアメリカは1950年代に下落の‘Fifth wave’を経験したと述べ、強大国の下落をいい出し、大きいセンセーションを起こした。

(原因として冷戦から弱くなったアメリカに対する大衆の恐れに合ってからのである。)

 

 

.1980年代に悲観論者たちはアメリカが悲劇的で急速{きゅうそく}な下落にむかっていることをよく主張しなかった。

-悲観論者たちは、国内政策や経済関係者たちに対し、力のグロバール分配の中でアメリカの経済力の下落と手段創造が原因であり、アメリカの経済の中での根本的な構造の弱点が原因で遅いスピードで苦しくなると主張した。

-また、悲観論者であったKennedyはアメリカの位置のゆっくりで平らな関係の衰退のため、‘MANAGE’が必要であることをいった。

 

 

.1980年代当時に指摘された悲観論者は先を見通した。

ある経済悲観論者だちは今の時代多すぎる消費と十分ではない節減である。

(例え、続けられている貿易と現在の当座勘定、連邦予算{れんぽうよさん}低下など。)

 

.1980年代以降、悲観論者たちはアメリカの地政学{ちせいがく}的な支配や経済の繁盛は衝突{しょうとつ}すると いった。

 

.Grate Recessionは起き、アメリカを含んだグローバル経済はその危機を脱してはない。

 →これをGilpinと他の悲観論者たちは警告している。

 

.もしアメリカは約20年前の危機を経験し、現在は改善されてかもしれない。

 -しかし、今アメリカのメインは地政学と経済のライバルである。

(例え、ソ連の解体や日本の1990年代の経済バブル危機)

 

7.1990年代以降悲観論がなくなったアメリカが楽観的な勝利主義が見られる。

-それどころか、‘単極の瞬間’と‘歴史の終わり{たんきょく(せい)}’は脱冷戦世界でのアメリカの力と  そのイデオロギーが全部変わることは出来ないことを確認できる。

(文責:陸)

 

 

4. Domestic Drivers of American Decline: Debt, Deficits, and the Dollar’s Uncertain Future

 

アメリカ衰退の指標の1つ:アメリカの経済・財政問題

◎注目すべき点としてアメリカの急増する国債国際準備通貨としてのドルの将来性への疑いがある。

→現在から2025年までの間に大きくのしかかる借金とドル危機は、ほぼ確実にアメリカを戦略的に弱らせ、海外への軍事コミットメントを低下させるだろう。

浮かび上がるアメリカの財政危機の原因は複雑である。

 

良い出発点として現代の列強は国家安全保障国家であり、福祉国家でなければならない。

Wolfers 1952

国家というのは大砲とバターを提供しなければならない。

・大砲…外部利益を守り、促進させるための軍事能力

・バター…国民の繁栄を確保し、公共財を提供するための政策(ex, 教育、年金)

軍事と経済の両方を安定させなければならない

→アメリカは軍事と経済を両立させることができた。なぜなら、国際経済での覇権的役割を担っていたからである

=国際システムでの準備通貨としてドルがアメリカを他国ができない方法での生活を許していた。

いままではアメリカが債務を返し、コントロールできないインフラによってドルの価値を落ちないだろうと、他国が信頼していて、ドルを保有しようとした。そして、アメリカは海外からお金を借りて、外部への野望(guns)や、国内への社会経済計画(butter)に出資することができていた。

 


 

しかしながら      

 

2008年以後、連邦政府支出が行き渡る劇的な政策がとられない限り、アメリカの国債を返済し、インフラをコントロールする能力に対しての疑念を出てきた。

 

負債額が増大する原因

①大恐慌

②給付金制度のコスト

③イラク・アフガニスタン戦争のコスト→税金からよりも海外から借金をして出資をしている

連邦政府支出(国防費、イラク/アフガニスタン、給付金制度)の合計の費用が原因で

Ex)

1兆円もしくはそれ以上の財政赤字になり、アメリカの至上最も高い対GDP比の国債の比率に達する。(連邦議会予算事務局、CBO 2009

・もし、アメリカが今の財政軌道を続けていたなら、政府予算の対GDP2020年までに100%に到達する。(CBO

・アメリカは2016年には対GDP比の国債の比率が100%に達するだろう。(IMF

 

 

 

もしこれらの見積もりが正しいならば…

 

次の10年間で増加するアメリカの国債は、アメリカの借金を返済し、インフラを抑制できる能力に対する海外投資家の信頼を低下させるという点に関してドルを危険にさらす可能性がある。

 

信頼を低下させたくない理由として

→アメリカは超過支出と個人の消費に出資をし、そして、国際経済システムの準備通貨としてのドルの立場を維持するために海外からの資本の流れに依存しているからである。

 

 

つまり、アメリカの地政学的優位性はドルの準備通貨の役割に依存する。

ドルの準備通貨としてのステータスはある種の特別な‘クレジットカード’とし機能している。実際に、アメリカは支払いのためにお金を稼がなくて済んでいる。むしろ、支払期日が来たときは、アメリカは海外から資金を借りるか、貨幣を増刷して対処しているのである。

 

もし、このクレジットカードが使わないとしたら

 

アメリカは税率と金利を上げたり、消費を少なくし、貯蓄をし、債務を減らし、そして、大胆に軍備や国内支出を減削することで、浪費する外と内への野心のために支払いをしなければならなくなる。

 

 

・ドルの長期的安定性についての疑問は大恐慌の前から存在するけれども、2007年から2009年までの出来事が2つの点からそれらの疑いを拡大させた。

①国際経済の他の大きなプレーヤーの出現

→中国のような地政学的ライバルや欧州のような曖昧な同盟国がなっていて、これらの国はそれぞれが野心を持ち、またソ連の脅威からのアメリカの保護はもはや必要としなくなった。

②ドルが不安定な将来に直面していること

→中国はアメリカの財務への自制のなさを心配している。また、外貨として大量のドルを保有しているが、ドルに対しての信用性を低下させてきている。むしろ、人民元を‘国際化’し、新たな準備通貨にしようとする動きも見えてきている。

 

→近い将来、アメリカは海外の貸し手へ、急なインフラは起こすことなく、債務を返還することができると保証することでドルを守らなければならない。これには予算削減、給付金削減、増税、そして金利の引き上げといったことが必要となってくる。

 

 

・また、年度予算の軍事費の総経費の内訳で、軍事予算が大部分を占めているために軍事費を削減しなければならない。高いレベルで支出しているため、軍事支出の急速な削減をしなければならないという国内の政治的圧力はきっと増してくる。

 

 

From CBO Website, 2011

アメリカが税金と支出についての選択をしなければならないときが訪れたら、多額の国防費がのしかかってくる。そのために、増税、軍事費以外のコストの削減、軍事費自体のコストの削減をしなければいけない。

2011年春 オバマ政権 国防費の削減を宣言した

しかし、膨大な国防費の削減は次に1015年の間で、アメリカは海外への軍事コミットメントを低下せざるをえない。そして、2つの結末が待っている。

①中国や新興国はアメリカとの軍事ギャップを埋める

②地域安定者・公共財の守護者としての能力の低下

 

 

 

(文責:古谷)

 

5. The End of Pax Americana

 

覇権安定論  軍事面:重要な地域を安定させ、世界的共有地を守る

       経済面:世界公共財を提供し、国際経済の流動性を支える

 

アメリカは衰退を始めており、覇権国としての責任を果たすことが困難になりつつある。

 

アメリカについての分析

軍事面…未だに圧倒的なパフォーマンスを維持。しかし、縮小が始まっており財政危機が

ひとたび起これば、更なる削減は避けられない。

 

経済面…覇権国として拠り所となるどころか、サブプライムローン問題を引き起こして、

経済危機に追い込んだ上に、世界で最も負債を抱えている状態である。

→もはや経済的には「覇権国」であるとは言えない。

 

アメリカ経済は世界経済を健全な状態に戻すにはあまりに弱々しい。

2009年のG20会議においてオバマ大統領は

「アメリカはもはや世界における最大の市場ではない。世界は中国に目を向ける必要がある。」と発言。

(文責:森田)

 

 

6. After Unipolarity: Can the Post-1945 International Order Be Preserved?

 

問題提起:

 中国の台頭、一極支配の終焉、そしてアメリカの経済的かつ財政的困難はパックス・アメリカーナにどのような影響を与えるのか?

→■Ikenberry (2001, 2011), Zakaria (2008), Brooks and Wohforth (2008)をはじめとする有名な学者の見解:

「アメリカはパックス・アメリカーナに必要不可欠な要素、すなわちその制度、ルール、そして規範[1]を“閉じ込める(lock-in)”ように行動することで、将来における一極支配の喪失を乗り越えることができ、その結果一極支配は保たれる。」

+

Ikenberry (2011:348)

「アメリカが覇権国でなくなった時、アメリカは将来における自国の利益を守るのに適した国際的枠組みを今日のように設置するべきである。」

しかし、これらは説得力にかけるものである。

 

 

Why?

 

【理由①】

 大国の軍事と経済的地位の間に重要な関係がある一方で、その国の名声とソフト・パワー[2]の間にも他方で重要な関係がある。

アメリカの一極支配の衰退はある問題を我々に突き付ける。

アメリカは戦後の国際秩序[3]を改革するにあたって、その先導を行う権限を持つことはできるのか?

 パックス・アメリカーナはアメリカの自由主義的イデオロギーを世界に広めるために計画されたものであり、政治的、経済的、そして社会的発展をもたらす唯一のモデルとしてその普遍性を主張した。

 しかし今日、1990年代に「ワシントン・コンセンサス」として知られていた自由貿易や自由民主主義といったアメリカモデルは、いままさに「北京コンセンサス」という代替モデルによって、その地位を侵されつつある。(Halper 2010)

+

 さらに、世界金融危機はアメリカの自由主義モデルの信用を失墜させた。

 アメリカは国際秩序の改革を先導するための信用性と正統性を保持することができるのか?

→■Financial TimesのコラムニストMartin Wolfの見解:

 「中国が繁栄する一方で、この西洋的財政システムの崩壊は、“一極支配の時”に屈辱的汚点をつけることになる。西洋の政策決定者が奮闘しているように、彼らの信用は失われた。誰が彼らを信用するだろうか?」(Wolf 2009)

 

【理由②】

アメリカは国際秩序を再活性させるために必要な経済的影響力持っていない

◆“閉じ込め”を実現する上での課題

「アメリカが可能な範囲で手段を用いて問題に取り組めるように、世界的統治と協力における構造を新しくし、再構築すること」(Ikenberry 2011:353)

 これを達成するためには、アメリカは、社会経済的後進性や地域的または国際的不安定と対立を生み出す失敗に立ち向かうための、安全保障、経済的リーダーシップ、世界規模での国家建設計画といった公共財を提供する上で先導を取る必要がある(Ikenberry 2011:354, 359)

 第二次世界大戦後、世界最高の軍事力と経済力を手に入れたアメリカは、国際システムに公共財を提供する物質的能力を持っていた。

 しかし、世界金融危機後、財政困難に陥ったアメリカが国際秩序に公共財を提供することはだんだん難しくなる。

 

【理由③】

中国とその他地域新興国の台頭

 もし中国と新興国がアメリカの衰退を認識すれば、中国と新興国は1020年と機会を待ち、自分たちの利益、規範、そして価値が反映されるように、国際システムを作り変えるだろう。(Jacques 2009)

 中国とアメリカは主権、内政不干渉、そして保護する責任などの重要な問題に対して、基本的にお互い異なった意見を持っている。

 中国は自らを自由主義的秩序の中に取り入れ、経済成長を推進しているが、同時にその富はアメリカの地政学的支配に挑戦するためのハードパワーに転換されている。

+

 中国は戦後の国際秩序を変えるためにシステム内で行動しているが、中国はBRICsや上海協力機構といった未発達の機構を通して、パックス・アメリカーナに取って代わる世界秩序の構築のための基礎を築いている。

 →■Martin Jacquesの見解:

 「中国は既存する国際システムの内側と外側の両方で同時に行動している。そして実際には、中国は現存するシステムと並んで存在しているだろう中国中心の国際システムを支援している状況であり、やがてこれをゆっくりと暴力によって手に入れ始めるだろう。」(Jacques 2009:362)

 

 

大国政治は力である。ルールや制度は孤立して存在しているものではない。むしろ、ルールや制度というものは、国際システムにおけるパワーの分布を反映している。国際政治では、支配した者がルールを作り出す。

 第二次世界大戦後の国際秩序は、アメリカの利益を反映するアメリカの秩序である。

 中国が戦後の国際秩序に取り込まれることによって抑制されるという考えは軽信性を欠くものである。アメリカの学者や政策決定者と同様に、中国の取り込みを成功に導くことは、パックス・アメリカーナの制度、ルール、そして規範を北京が受け入れるかどうかにかかっている。

 Ikenberryが言うように、アメリカが中国に提案すべき約束は、「北京が、ワシントンが東アジアにおける主要なセキュリティー・プロバイダ―(security provider)であるということを認めるといったワシントンの中心的利益を受諾し、順応する代わりに、ワシントンは、中国に地域秩序内における地位を提供することで中国の台頭を受け入れる」ということである。(Ikenberry 2011:356)

しかし、中国は地域内における覇権を目指しているので、中国がこの取引を受け入れることはない。

 どの観点からも、危険であることは明らかである。アメリカが東(そして東南)アジアにおける中国の台頭を受け入れない限り、ワシントンと北京は対立の道を歩むことになる。

 

(補足)※ご参考までにどうぞ。

第二次世界大戦後の国際秩序(the post-1945 international order)はアメリカが主導でつくりあげてきた西洋秩序を基本としたものと言われている。西洋秩序の特徴として、アイケンベリー(G. John Ikenberry, 1954-)は以下の3つをあげている。

1. Unlike the imperial systems of the past, the Western order is built around rules and norms of nondiscrimination and market openness, creating conditions for rising states to advance their expanding economic and political goals within it.

2. Past orders have tended to be dominated by one state. The stakeholders of the current Western order include a coalition of powers arrayed around the United States.

3. The postwar Western order has an unusually dense, encompassing, and broadly endorsed system of rules and institutions.

( Source: G. John Ikenberry, “The Rise of China and the Future of the West: Can the Liberal System Survive?,” Foreign Affairs, 87-1, January / February 2008, pp.23-37.)

(文責:土手内)

 

 

7. Conclusion

バランスオブパワー理論 v.s. 一極安定理論

アメリカの軍事的・経済的衰退は事実。

 

・それぞれの主張(第二次大戦以後について)

バランスオブパワー理論→アメリカに対抗する国(中国)が出現し、一極支配は崩壊。

一極安定理論     →中国を比較したとしてもアメリカの一極支配は21世紀も継続。

 

筆者の考え→一極安定論者は純粋なパワーのみに着眼しすぎて、中国の成長速度を見誤っ

てしまった。2016年には中国のGDPはアメリカのそれを超える。中国はも

はや成長している国ではなく、成長を遂げた国である。第二次世界大戦後の

予測について一極安定論者は間違いであった。

 

・アメリカの姿勢について

 国際システムにおいてのパワーの拡散は既に劇的に起こっており、そのパワー配置の結末についてアメリカは責任を持たなければならない。しかし、アメリカの高官は彼ら固有の否定する姿勢に束縛されており、現状を認めていない。

    一極支配を覆す証拠に対面したとして、それを否定し、一極世界が続くと信じている。

    もし、一極支配が終わったとしても、”liberal order”は世界に残り続ける。そのため世界は変わらず、自分たちに重大な影響は起こらないと信じている。

しかし、これらはあまりに短絡的な考えである。

 

・一極支配の次には?

 覇権国の衰退は常に大きな影響を引き起こす。多極構造の時代が間もなく訪れる。その時、世界の姿はより乱雑な様を呈するだろう。

 中国の成長を認め、アメリカは一極支配の終焉を現実として受け止めることが、次の15年先を見越したアメリカのグランドストラテジーの柱となるだろう。

(文責:森田)

 



[1]規範(norm):諸主体が集団として持つ適切な行動に関する共有された期待。(出典:森 聡,『国際政治学の基礎概念「アメリカの政治と外交」②』,2010

[2]パワー(power):他主体の選好(好みや考え方)を変えることは当面前提せずに、行動に直接はたらきかけようとする能力(=放っておいたらしないようなことをさせる能力)と、他主体の選好を変えることによって、行動に間接的に働きかけようとする能力(=放っておいてもこちらの望むようなことをするようにさせる能力)に大別される。ジョセフ・ナイの用語で言えば、前者は「ハード・パワー」であり、後者は「ソフト・パワー」ということになる。一般的にパワーの対象、手段、使用法の組み合わせは以下の3つが最も典型的であると見られている。

①軍事的手段を脅迫に使い、他主体の行動に直接的に作用させるパワー(=軍事力)

②経済的手段を褒賞に使い、他主体の行動に直接的に作用させるパワー(=経済力)

③文化的手段を説得・感化に使い、他主体の選好を変えることによって行動に間接的に作用させるパワー(=文化力)

(出典:田中明彦、中西 寛編,『新・国際政治経済の基礎知識[新版]』,有斐閣,2010pp.2-3

[3]秩序(order):規範が間主観的に共有されている状態。※間主観性(intersubjectivity):主観を持つそれぞれの主体間で成立する、国際社会における事象に関する共通の理解や認識。(出典:森 聡,『国際政治学の基礎概念「アメリカの政治と外交」②』,2010