厚木基地シンポジウム パート2

Posted on Posted in 2010年

江本です。

 

 

 

 

さて今回の目玉である、

 

小谷哲男先生の『東アジア情勢概観』スピーチ全文の紹介

 

と僕なりの所感を書きたいと思います。

 

 

 

 

(細字、小タイトルは僕の文です)
●東アジアの今

 

 

最近の出来事を見ていますと、ひとつ明らかなのは我々の住んでいる地域というのは非常に危険な地域であるということがいえると思います。アジアはめざましい経済発展を遂げており、世界の成長センターという機能を果たしていますが、たとえば先週北朝鮮が韓国の島に砲撃を行ったように、武力紛争につながりかねない様々な問題がこの地域には起こっています。

 

 

 

 

そのひとつの例が、今年の三月に起こりました、韓国の哨戒艇天安撃沈事件です。今年3月26日の夜、韓国海軍の哨戒艇天安が黄海の北方限界線近くで突然大爆発を起こし、沈没。104名の乗組員のうち、生き残ったのは58名だけでした。

 

 

 

 

当初から北朝鮮の関与が疑われましたが、北朝鮮がこれを一貫して否定しています。その後韓国が組織した国際調査団の報告により原因は北朝鮮潜水艇から発射された魚雷による爆発と断定されましたが、この調査自体に2カ月かかりました。この調査のあと、韓国が国連安全保障理事会に問題を提起した頃には、国際社会はもちろん、韓国国内においてさえ強硬な報復措置を求める声は弱まっていました。こうして北朝鮮は、魚雷という非対称攻撃によって報復を受けることなく自らの政治目的を果たすことができました。

 

 

●中国版天安号事件のシナリオ

 

実はこの天安事件を予測するようなシナリオが、昨年度末アメリカの海軍大学の教授によって書かれています。今日はそれをまずご紹介したいと思います。

 

 

 

 

このシナリオは横須賀を拠点とする原子力空母ジョージ・ワシントンが2015年のある日、東シナ海をパトロール中に突然中国の対艦弾道ミサイルの攻撃を受け、80機の艦載機および5000名の乗組員と共に東シナ海の海中に沈んでいくというものです。

 

 

 

 

このシナリオは、次のように展開していきます。

 

中国は直ちに攻撃を否定します。否定しつつ、ジョージ・ワシントンの乗組員を(中国自ら)救出する模様を全世界に中継して、世界的な世論を味方につけていきます。米国の報復にそなえ、中国は全軍に警戒態勢をとらせています。

 

一方に第七艦隊は主力である空母を失っておりますので即応能力はありません。そのためアメリカは世界中から兵力を西太平洋に展開しなければなりませんが、米国本土からこの地域に展開するためには3~4週間かかるという事実があります。その間、アメリカは外交の舞台で中国がジョージ・ワシントンを対艦弾道ミサイルで攻撃したと非難しますが、中国は引き続きこれを否定します。中国は逆にアメリカが原子力空母の事故によって東シナ海を汚染している、と糾弾します。

 

一方日本はどうかといいますと、アメリカの報復活動が日本にとっては集団的自衛権の行使にあたるため海上自衛隊は動くことができない、という現状があります。

 

 

 

 

このシナリオが結論づけるのは、約75年に渡った西太平洋におけるアメリカの海軍力の覇権が終焉を迎えるというシナリオです。あまりにも衝撃的な内容のために、このシナリオには当初米中の対決の煽りを危惧する声や、中国がアメリカの空母を攻撃する蓋然性の低さを指摘する批判が

 

ありました。

 

 

 

 

しかしこのシナリオが本当に指摘したかったのはなにかといいますと、中国が対艦弾道ミサイルという非対称兵器と共に、法律・心理・世論を巧みに組み合わせて米韓軍の戦略的機動性、つまり必要なときに必要な兵力を必要な場所に送り込む能力を低下させることができるという問題を指摘しました。

 

 

●中国海軍増強の歴史と今

 

これはあくまで仮定のシナリオですけども、次から現実を見ていきたいと思います。

 

現実はどうか?まずこの地域における中国の海洋進出という問題があります。歴代の中華帝国というのは、基本的に自給自足の大陸国家でありまして、脅威は陸の国境線を越えてくることが常でありました。このため中国はこれまで海洋に関心を示すことは、ほとんどありませんでした。しかし1980年代に改革開放路線のもとで中国は経済発展を始め、一方冷戦の終結によって北方ソ連の脅威から解放されました。これによって現在の中国の海洋進出が本格的に始まっています。

 

 

 

 

中国海軍は80年代に従来の沿岸防衛思想を改めまして、日本列島から台湾、フィリピン、南シナ海にいたる「第一列島線」。さらには小笠原諸島、グアムを結んだ「第二列島線」での敵対勢力の接近を阻む、近海積極防衛を目指すようになっていきます。特に第一列島線は、中国の海岸線から200海里の距離にあり、台湾を統一しない限り中国はこの第一列島線によって封じ込められているということになります。

 

 

 

 

1996年の3月台湾海峡危機で、アメリカは二個空母戦闘群を台湾近海に派遣しましたが、これによって中国はこの第一列島線によって封じ込められているという現実を再認識することになりました。

 

 

 

 

このため中国は現在、この二本の列島線に敵対勢力を侵入させないために水上艦や潜水艦、戦闘機や爆撃機に加え、ミサイルや機雷、衛星破壊能力、サイバー攻撃能力というアクセス拒否(A2)能力を本格的に高めています。

 

 

 

 

今年の4月に沖縄本島と宮古島の間を一隻の中国艦船が通りましたが、そのときに中国のヘリコプターが海上自衛隊の護衛艦に異常接近することがありました。またこの夏以来続いている、米韓合同演習でジョージ・ワシントンが黄海に入ることを、極端に嫌がっているということがあります。また、最近ありました尖閣沖における漁船衝突事件、これらが示すことは中国が第一列島線の内側をあたかも自分たちの領海のように見なしているということであります。

 

 

 

 

第一列島線上にある、在日米軍基地は中国の海洋進出をけん制するうえで、特に重要であります。また中台関係が劇的に改善し、極東における有事の際に台湾が中立を保つ可能性が高いことから、厚木を含む在日米軍基地の重要性はますます高まっているということがいえます。

 

 

●北朝鮮問題

 

次、朝鮮半島に目を向けますと北朝鮮の脅威というのは明白であります。朝鮮戦争は終結しておらず、停戦状態にあるだけで、まだ緊張状態というのは続いています。最大の問題は北朝鮮の核ミサイル開発です。北朝鮮にとっては、体制の維持こそが最大の目的であり核保有というのはそのための手段であります。特に北朝鮮は、指導者の移行期にありキム・ジョンウンの権威を高める為に、対外的に強硬姿勢をとることが今後も予想されます。

 

 

 

 

天安号事件と先週起こった砲撃事件はその表れではないか?ということがいえます。在日米軍基地は、北朝鮮に対する抑止の不可欠な要素であるということがここでも指摘できます。

 

 

●ロシア問題

 

それからもうひとつロシアの問題があります。

 

ロシアは90年代の経済的な停滞を乗り越え、資源大国として復活しつつあります。それにともなって軍事活動も活発化しています。ロシアの航空機や監視船によるパトロールは常態化し、今年の夏には北方領土で初めてとなる大規模な軍事演習を行いました。また尖閣での漁船衝突につけいるかのような、メドヴェージェフ大統領の国後(くなしり)訪問もありました。

 

 

 

 

ロシアはもはや我々の敵ではありませんが、経済的に重要なアジアにおける影響力を拡大するために、軍事力を後ろ盾とした強硬姿勢をとることは否定できません。ロシアが地域の不安定要因として復活することのないように、強固な日米同盟が必要であるといえます。

 

 

 




●人道支援・災害救援の重要性

 

それからもうひとつ従来の軍事的な話だけではなくて、新しい問題も我々は考えていかなくてはなりません。そのひとつが人道支援・災害救援です。

 

 

 

 

ある統計によれば、全世界でおこる大規模災害の7割がこの地域(東アジア)に集中しています。各国の軍隊にとって、人道支援と災害救援は戦闘任務と同じくらい重要になってきています。たとえば米海軍と海上自衛隊は、今年「パシフィック・パートナーシップ」という人道支援プログラムで協力しています。人道支援と災害救援では、空母とその艦載機は大きな役割を果たすことができます。実際2004年にインド洋で起こった大津波の際には、米海軍空母リンカーンが多国籍救援部隊の司令塔をつとめています。

 

 

 

 

この人道支援・災害救援はまた、地域諸国との信頼醸成を行ううえでも重要なツールであるということがいえます。

 

 

●結び

 

日米同盟のもとで、アメリカは西太平洋からインド洋にいたる海域での戦略的機動性を確保し、日本に対する拡大抑止と海上交通路の確保を担保してきました。日米両国にとって、この同盟は中国の台頭との均衡を図り、その平和的台頭を保証する重要なツールであります。また北朝鮮の無謀な冒険主義を抑えるうえでも、不可欠であります。強固な日米同盟がこれまで地域の安定と繁栄を支え、周辺諸国に安心を与えてきました。

 

 

 

 

今年は日米同盟の50周年でありましたが、その重要性は今後を一層増していくと考えられます。

 

 

 

 

以上です。

 

 

 

 

 

 

 

所感

 

 アメリカは大西洋と太平洋に囲まれた世界随一の海軍国家です。そのアメリカがもともと陸軍国家であったはずの中国の、海軍国家化に強い危機感を抱いているということに時代の変化を感じます。さながら近代ドイツ帝国のヴィルヘルム2世が大英帝国に対して行った「建艦競争」に似ていると思います。「海上権力史論」を著してアメリカのフィリピン植民地獲得の動機を与え、シー・パワーの確保を主張した地政学者のアルフレッド・セイヤー・マハンという人がいます。この学者の有名な主張に、「海洋国家は大陸国家を兼ねることは出来ない」というものがありますが、中国はこの主張の反証例とならんとして行動しているかのようですね。

 

 個人的に衝撃的だったのは、空母一隻の沈没で第七艦隊の機能が本格的に麻痺してしまうという点です。普天間基地問題を扱ったときに、いやというほどアメリカが『即応能力』の確保に敏感になっているという事実をみてきました。しかし海の上を進む海軍というのは、他の地域に展開するために必要な時間が空軍と比べ大幅にかかってしまいます。

 

いかにアメリカ軍が強大であろうとも、必要なだけの軍事力を作戦地域に展開するには「距離と時間」の問題がついてまわるのです。

 

中国有事の際には、中国中枢部に向けて駆逐艦と戦闘機による共同でのミサイル攻撃を行う(エア・シー・バトル構想)ことで瞬時に中国の戦力を無力化するという攻撃プランを立てていますが、それも空母の存在あってのものです。

 

 引き続き、日本は持ち前の監視能力を以ってしてアメリカに必要な情報を提供をしつつ中国の動きに対処しなければなりません。

 

 ただ当然のことですが、日本はアメリカがいくら損害を被ろうともなにも行動できません。これが土壇場での日米同盟のなんらかの悪影響を及ぼすことも十分にあります。

 

 中国が現状打破国家として、しかるべき強硬的行動をとった場合、日本は片務的な日米同盟を見直す必要に迫られるというのも十分に考えるべきであると思います。

 

 もちろんそうならないために、平和的台頭させることを前提にして外交を続けていかなくてはなりません。

一方で災害救援においてもアメリカの軍事力が有効活用できることは、東アジア諸国家同士の相互依存状態を高め、戦争へのリスクを高めるという楽観的な見方につなげることができるかもしれません。しかし、本当に災害救援がこれからの東アジアの協力関係の発展に寄与する可能性があるといえるのでしょうか?四川省の大地震の例のように、救援を受け入れる側の中国の姿勢しだいで救援活動が制限されてしまうという現実があったことを思い出さなければなりません。
なによりも、ジョージ・ワシントン沈没のシナリオに「中国の救援活動」というのがあったことも、重要です。中国にとって救援活動は、対外的な世論を味方につけるための道具に使われてしまう危険性をはらんでいます。


最終的に問題になるのは、台湾問題であると自分は考えます。
もし台湾有事が起こった際に、日米は台湾関係法を無視してでも日本へと戦火を拡大させないために戦況を傍観することもひとつの選択肢と考えられるからです。これを中国を刺激しないしたたかな行動と見られるか、弱腰と見られるか・・・恐らく後者だとは思いますが・・・中国の軍事力は一筋縄では対抗できないとアメリカが考えている以上、土壇場でギリギリの選択がなされるのは間違いないと思います。

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